避難所HUG(ハグ)東日本大震災で役立つ

静岡県西部危機管理局危機管理課 課長 倉野 康彦


1 避難所HUGとは


 避難所HUG(以下「HUG」と表記)は、避難所の運営を模擬体験するために静岡県が2007年(平成19年)に開発したゲームです。H(hinanzyo避難所)、U(unei運営)、G(gameゲーム)の頭文字を取ったもので、英語で「抱きしめる」という意味になり、避難者を優しく受け入れる避難所のイメージと重ね合わせて名付けました。ゲーム感覚で楽しく避難所運営を模擬体験できるのが特徴です。
 ゲームは、カードと避難所の図面、掲示板を使い、読み上げ係1人と6人程度のプレイヤーから成るグループをいくつか作って行いますが、読み上げ係は、避難者の名前や性別、年齢、避難者が抱える事情などが書かれた避難者カードを、プレイヤーの対応能力をやや上回るペースで次々と読み上げ、プレイヤーは、そのカードを避難者の事情に配慮しながら体育館や教室の図面の上に配置していきます。
 また、避難者カードに混じって「トイレが山盛りになっている」「総理大臣が見舞いに来る」「炊き出し場を決めておいてください」等の出来事や空間配置を要求するイベントカードが読み上げられるので、プレイヤーは対応策を掲示板にお知らせとして張り出し、どこを何に使うか等の空間配置を敷地図に記入して決めていきます。
 こうした中で、参加者は互いの考え方を理解し合いながら、自由に意見を出し合い避難所運営について理解を深めていきます。


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話し合いながら避難者を配置する


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避難者へのお知らせを掲示する


2 HUGが東日本大震災で役立った事例


 HUGは、静岡県作業所連合会が手作りで製作・販売しており、現在全国の自主防災組織、ボランティア、学生、行政職員、教職員等に普及しつつありますが、東日本大震災で実際に役立ったという事例がいくつか見つかりましたので、ここに紹介いたします。


(1)仙台市太白区東四郎丸児童館
 (仙台市市民活動サポートセンター通信「ぱれっと」2011年8月号より引用)



 東四郎丸児童館は、避難所に指定されていなかった施設であるにもかかわらず、小岩孝子館長をはじめとする複数の職員がHUGの研修を受けていたということであり、防災に対する意識の高さが感じられます。
 小岩館長の話では、震災当日は、暗くなってから車椅子の人、老人、妊婦さん、犬などペットと一緒等の避難者が押し寄せてきましたが、受付を設置し、避難者の事情に応じて落ち着いて部屋割りをし、避難者の出入りまできちんと管理できたとのこと。職員4人で対応しましたが、このうち3人がHUGを経験していたとのことです。
 なお、HUGを経験したのは1回だけで、その時は、何がなんだかわからない間にゲームが終わってしまいましたが、受付の重要性やペットのことも含めた個別対応の部屋割りが印象に残り、震災の時も適切に対応できたとのことです。
 実災害では、どこかにしまってあるマニュアルを探し出して、明かりを灯して読んでいる暇はありません。HUGを開発した目的のひとつに、HUG経験者が1人ひとつでも良いから何か覚えておいて実際に役立ててほしいということがありますが、東四郎丸児童館の事例は、まさにこのことが実現した好事例だと思われます。


(2)仙台市泉区高森東連合町内会
 (仙台市ホームページ、仙台市泉区・町内会長インタビュー「町内会は震災にこう対応した!」より引用)



 傳野会長の話では、この地区では避難所運営は連合町内会(連合自主防災会)が力を合わせて行うことになっているが、災害対応の訓練としてはこれまでは屋外の訓練を実施してきた。こうした中で、地区社会福祉協議会が主催してHUGを実施した際、避難所には様々な事情を抱えた人やペットも避難してくることがわかり、何かと考えさせられることも多く、その後参加者がいろいろ話し合った。震災当日は、病気を抱える人、人工透析の人、足を骨折したが病院で手当をしてもらえずに帰された人、多数のペット連れの人などが避難してきたが、HUGの経験もあり落ち着いて対応できたとのことです。


(3)仙台市内でのHUG体験会の実施と東日本大震災
 (「民生委員・児童委員の安否確認・見守り活動および避難・復興期の支援活動のあり方調査研究事業ー東日本大震災における民生委員・児童委員の実践記録ー」の中の「仙台市民生委員児童委員協議会コメント」より引用)



 仙台市民生委員・児童委員協議会の森孝義副会長の話では、仙台市内では震災の1年以上前からHUGを実施しており、これまでの実動訓練の積み重ねの上にHUGの図上訓練が行われた結果、成果が出た。震災のときも、HUGに出てくる出来事や様々な事情を抱えた避難者についての対応ができ、体が自然に動くことができた。自分で考え自分で行動する模擬体験が役立ったなどの感想が聞かれました。
 震災前の仙台市内でのHUGの実施状況について、若林区社会福祉協議会の古澤良一事務局長、仙台防災学習研究所の古橋信彦所長に聞いたところ、若林区を中心に町内会長・民生委員・仙台市職員・社会福祉協議会関係者などを対象として、31回延べ約1,100人の方が経験していたとのことであり、このことが震災時に役立ったと思われます。なお、震災後にも数多く実施されており、改めて避難所運営を考え直すツールになっているようです。


3 HUGの役割


 防災訓練の手法には、大きく分けて実動訓練と図上訓練がありますが、前述の高森東連合町内会の例に見られるように、地域において実施される訓練のほとんどは実動訓練です。
 避難所運営についての実動訓練としては、地域の住民が避難所である学校等に集まり、受付、安否確認等を行い、その後で体育館や教室、校庭を見て周り、場合によっては実際に宿泊をするというような訓練が各地で実施されています。
 HUGは、カードに見立てた避難者を、それぞれの事情に応じて部屋割りしたり、炊き出し場などの空間配置、出来事への対応を行う図上訓練の一種ですが、実動訓練では取り組みにくいこともできることに特徴があります。
 たとえば、HUGでは赤ちゃん、妊婦さん、老人、寝たきりの人、持病を持つ人、外国人など多種多様な避難者を多数設定してありますが、実動訓練では参加者はどうしても大人の健常者が多くなるので、実際に多種多様な避難者役を多数準備するのは難しいのではないでしょうか。避難者の配置もカードで行うのなら簡単にできますが、実動訓練では参加者の移動や案内等に時間がかかり短時間で行うのは難しくなります。
 また、炊き出し場や物干し場、給水車、仮設トイレの設置場所等の空間配置などについては、HUGでは次々に図面上で決めていきますが、実動訓練では、準備や組み立て、片付け等に時間がかかり、そう簡単には取り組めないのではないでしょうか。
 実動訓練には、実際の避難所の様子を確認したり、炊き出しやテント・仮設トイレの設置等を体験できるというメリットがありますが、避難所の運営そのもののような、意思決定や調整の練習をするには、むしろ図上訓練の方が取り組みやすいのも事実です。ここにHUGのような図上訓練が役割があるのではないでしょうか。
 最後に、小岩館長からいただいた東四郎丸児童館の震災時の実際の部屋割りを掲載します。


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